大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1123号 判決 1993年2月26日
控訴人(被告) 社団法人日本労働者信用基金協会
右代表者理事 齋藤敬一
右訴訟代理人弁護士 山本博
同 荻原富保
控訴人(被告) 角谷亀太郎
右訴訟代理人弁護士 播磨政明
被控訴人(原告) 株式会社コスモビルディング
右代表者代表取締役 伊藤大次郎
右訴訟代理人弁護士 三木俊博
主文
一、原判決主文第一、第四項及び第五項中控訴人らに関する部分を次のとおり変更する。
1. 控訴人社団法人日本労働者信用基金協会は、被控訴人に対し、被控訴人が原判決添付別紙物件目録(一)記載の建物につき神戸地方法務局三原出張所平成元年九月一三日受付第五〇三二号をもってなされた所有権移転登記の抹消登記手続をするのと引換えに、一〇四万〇一九五円を支払え。
2. 控訴人角谷亀太郎は、被控訴人に対し、被控訴人が原判決添付別紙物件目録(一)記載の建物につき神戸地方法務局三原出張所平成元年九月一三日受付第五〇三二号をもってなされた所有権移転登記の抹消登記手続をするのと引換えに、一九七万一一一五円を支払え。
3. 被控訴人の控訴人らに対するその余の請求を棄却する。
二、訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、控訴人ら
1. 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2. 被控訴人の請求を棄却する。
3. 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二、被控訴人
1. 本件控訴をいずれも棄却する。
2. 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二、当事者の主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実第二当事者の主張(原判決三枚目裏八行目から一五枚目表九行目まで)のうち控訴人らに関する部分と同一(但し、原判決添付別紙物件目録表二行目「九五番地四」を「壱九五番地四」と改める。)であるから、これを引用する。
一、控訴人ら
1. 民法五六八条一項、五六六条一項、二項の類推適用について
競落人は、競落建物の敷地の賃借権その他使用権が不存在であったことを理由として、民法五六八条一項、五六六条一項、二項を適用ないし類推適用して、建物競落における契約を解除することはできない。
仮に、建物の従たる権利として賃借権が存在するものとして競売されたことが明白な場合に限っては、民法五六八条一項、五六六条一項、二項を適用ないし類推適用して建物競落における契約を解除できるとの立場に立ち、かつ、本件賃借権が存在していたとしても、本件においては、本件競売事件の記録上、本件建物敷地の四〇パーセントの範囲の権利が使用借権で、競売により消滅すると書かれていたのであるから、敷地につき賃借権その他使用権の存在することが明白な場合として競売されたとはいえない(競売から三年もたってから、明渡訴訟の控訴審の和解期日において、和解に協力する立場から、単に、「条件さえ折り合えば被控訴人に賃貸してもよい」との意向が敷地所有者宮本から示されたとしても、現実に賃貸借がなされている訳でもなく、条件についての交渉がなされたこともないのであって、宮本が、競売当時被控訴人に賃貸する意向を有していたのか、また、現在も有しているのかは不明であり、このような場合、使用貸借部分に何ら問題がないとはいえない。)。
2. 除斥期間の起算点について
一六か月もの長期間にわたる賃料不払を理由とする明渡訴訟が提起された場合、特段の事情がない限り、請求が認容されることは必至であるし、プロの不動産買受業者である被控訴人も訴状を見れば容易にそのことは判ったはずであるから、本件においては、除斥期間は訴状の送達の日から経過しているというべきである。
3. 借地権の不存在についての悪意ないし重大な過失について
被控訴人は、プロの競売物件の買受業者であり、借地権等の付着する物件買受けの経験も豊富であって、競落後権利関係を整理して第三者に転売し、利益を得ることを目的として競売に参加しているのであるから、本件のような問題物件については、競落後の交渉のみを重視することなく、競落前に貸主に接触して敷地利用権についての確認をとるべきであるのに、本件においてはその確認を怠っており、プロの買受業者として借地権の消滅につき悪意ないし重大な過失があるから、瑕疵を主張できない。
4. 増田の無資力について
(一) 原審における増田の証言及び本件建物に対して現実に収去の執行がなされていないことからみて、土地所有者は増田が相手であれば建物の存続を許容していることが窺われるから、本件建物は必ずしも現在無価値であるとは断定しがたいといえるし、増田が本件建物以外に所有している居宅(評価額七七七万円)も同様の理由で無価値であるとは断定しがたい。したがって、これらの資産を評価し、配当しうる金額を本件請求金額から控除すべきである。
(二) しかしながら、本件訴訟におてい、増田の現有資産を全て評価して配当しうる金額を算出し、配当した金額との差額を返還させるなどということは現実的ではない。そこで、かかる事態を防ぐ目的で、民法は、債務者の無資力を要件としたのである。このような制度趣旨から、無資力は客観的な無資力でなければならない。すなわち、被控訴人は、増田に対して強制執行をして取立て不能なることを証明すべきである。一二〇〇万円程度の負債で、七七七万円以上の資産を有する者が無資力であるとはいえない。
5. 同時履行の抗弁
被控訴人の本件配当金返還請求権は、売買契約の解除によって被控訴人に生じた原状回復義務、すなわち増田に対する本件建物についての所有権移転登記(神戸地方法務局三原出張所平成元年九月一三日受付第五〇三二号)の抹消登記手続と引換給付の関係にある。
よって、控訴人らは、被控訴人が右抹消登記手続をするまで本件配当金の返還を拒絶する。
二、被控訴人
同時履行の抗弁及び控訴人らの主張は全て争う。
第三、証拠の関係<省略>
理由
一、当裁判所は、被控訴人は、控訴人らに対し、本件建物につき神戸地方法務局三原出張所平成元年九月一三日受付第五〇三二号をもってなされた所有権移転登記の抹消登記手続をするのと引換えに各配当受領額の返還を請求しうるものであると判断するものであるが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決理由(原判決一五枚目裏三行目から二八枚目表九行目まで)のうち控訴人らに関する部分と同一であるから、これを引用する。
1. 原判決一六枚目表二行目「一五日」を「二二日」と改める。
2. 原判決一六枚目表七行目末尾の「が」を削除する。
3. 原判決一八枚目裏一〇行目「強ては」を「ひいては」と改める。
4. 原判決二〇枚目裏五行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「建物の競売においては、必ずしも敷地利用権の存在を前提としているものではないから、それが不存在であった場合、原則として債務者ないし所有者に、その不存在の責任を問うことはできないというべきである。
しかしながら、競売の実情からみて、敷地利用権の存在が明示され、その価格が評価されて最低競売価格が決定されたことが明らかであり、これを前提として競売が行われた場合において、後日その敷地利用権が否定されたときにまで、民法五六八条一項、五六六条一項、二項の類推適用を否定することは、当事者間に著しい不公平、不合理を招くことになるといえるから、このような場合には、例外的に、債務者または建物所有者に敷地利用権の存在についての担保責任を負担させ、競落人は、これらの者に対し、契約の解除または代金の減額を、債務者らが無資力な場合には配当金の受領者に対し、その返還を求めることができると解すべきである。
そして、このことは、競落人が不動産業者であり、競売物件買受業者であったとしても、かわりはないというべきである。
よって、本件においては、前認定のとおり、競売手続上、本件建物に付随する権利として借地権が評価され、これを考慮して最低競売価格が設定され、これを前提として競落人が当該建物を競落したことが明白であって、前記認定の事情の下では、本件建物敷地の一部に使用借地が存したからといって、敷地につき借地権の存在することを前提として競売がなされた場合に当たらないということはできないから、民法五六八条一項、五六六条一項、二項を類推適用して、被控訴人は、増田に対し、競売による契約を解除することができると解すべきである。」
5. 原判決二八枚目表四行目の次に行を改めて次のとおり加える
「控訴人らは、当審において同時履行の抗弁を主張するところ、右抗弁は理由がある。
よって、控訴人らは、被控訴人が本件建物についての前記所有権移転登記の抹消登記手続をするまで、本件各配当金の返還を拒絶することができる。」
二、以上によれば、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、いずれも主文第一項1、2記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべきであるから、右と異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条但書、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 福永政彦 古川行男)